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「焦っちゃダメ!絶対部屋が呼ぶから」
初めての部屋探しをする私に、周りの友達はこう口を揃えたものだ。
とにもかくにも、30才を過ぎてから、初めての一人暮らしをしようというのである(何を今ごろ!)。おまけに独身(今もだけど)。おまけに、フリーランスでテレビの台本書きをしている(何て、不安定な仕事なんだ!)。おまけに、名古屋。そう、質実剛健を美徳とする町で、私が背負ったマイナスは、あまりにも大きかった。
「カタい人に部屋を貸したいからって、いきなり断られたことあるわよ。アタシ」
「30過ぎた独身の女がひとりで部屋を借りにきた。っていうとね、バックに怪しい男の人がついてるんじゃないかって疑うらしいのよ。まゆみさんなんて、おとなしそうに見えるから逆に怪しいのよ。(そ、そういうもんなの?)」
仕事場の女性タレントさんが、脅す。みんな多かれ少なかれ、こういう経験をしているらしい。
しかし、女性といえども一人暮らしができなくては、一人前とは言えない。万が一、万が一?両親に何かあったとき、面倒を見ながら仕事もこなすには、日常の訓練も必要。自分で自分の生活の面倒をみられなくてはどうするのだ!と決して両親の「嫁にいけ!」攻撃から逃れるためではない。私の志は高いのだと、部屋探しをはじめたものの、やっぱりハードルは高かった。
「まじめに会社勤めをする気はないの?」
住宅情報誌の茶髪、片耳ピアスのお兄チャンにいきなり、こう説教された私。確かにフリーで仕事とは怪しそうかもね。きちんと説明しなかった私も悪かったよ。
結局「明日、テレビを見て下さい。私の名前が出ますから。私、女一人で一生懸命仕事してるんですっ!」と番組を宣伝する奥の手に出た。こうでもしないとやっぱり独身の30スギの女は信用されないのね。ああ悔しい。世間って厳しい。何が男女平等よ!とはいえ、背に腹は変えられない。ようやくこれで信用獲得に成功。他の不動産屋でもこの手を使ったため、急に待遇がよくなったこともあったっけ。(なんと、偶然、当時私が担当していた番組を全て見てくれていたのだった。このときほど、視聴者に感謝したことはない)
「ドアをあけてスグ部屋全体が見える間取りはやめた方がいいよ。落ち着かないから」
「初めてじゃあ淋しいだろうから、知り合いのマンションを紹介しようか?」
「角部屋だと、自分の部屋へのお客以外は部屋の前を通らないから安心よ」
一人暮らし、部屋探しの先輩は周りにゴマンといた。皆、それなりに苦労し、経験した結果のアドバイスだから、とにかく重みが違う。それまで、間取り図などこれっぽっちも見たことがなかった私には、本当に心強かったものだ。
およそ3ヶ月で廻った物件は、十数件。結局、私が選んだ部屋は、一番古かったけれど、入った途端、一番安心できる部屋だった。
オートロックでペットもOK。東南角部屋で、クローゼットも広い。こんなに条件がいい部屋でも、何故か心は動かなかった。
理由は「何となく居心地が悪かったから」。
見合いの条件がどれだけ良くても、結婚する気になれないのに、なんだかよく似ている。
基準は結局、ただ一つ「好きかどうか?」。最後に廻った不動産屋で、担当になってくれた女性は、何と私が「初めてのお客さん」。実に親身になって部屋を探してくれた。そしてその物件に入ったとき、意味じくも彼女は言ったのだ。
「今までご案内した中で、ここが一番長い時間いらしゃいますね。居心地いいですか?」と。
部屋探しは、どんな空間が自分にとって心地よいのか?それを知る、自分探しだった。ひょっとしたら、恋と同じなのかもしれない。押入がいびつだったり、洗面所が狭かったり、そんなことも、愛おしく思えるのだ。高学歴で、ハンサムで、高収入で?という条件でも「なんとなく一緒にいてくつろげない」とダメ。ワガママといわれようと、そうなんだもん。もちろん、そういう「条件」が整うことが安心。という人は、新築で、条件ばっちりの物件を選んだりするのだろう。それもうらやましいなあとおもうけれど、自分はどうもそうじゃないらしいと、部屋を探してみて、実によくわかった。
とっても古いマンションなので、突然ブレーカーがとんで、真っ暗になってあせったりしたけれど、結構楽しみながら暮らしている。きっと、これが皆がいう「部屋が呼ぶ」ということだったのだろう。
でも・・・「一人暮らしをすると、淋しくなってきっとすぐ結婚するよ」この意見だけは、どうもあたらなかった。 どうしてかなあ?こればかりは、みんなに「焦ったら?」っていわれるのに?
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