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よみたい!ネット
エッセイ

 


第10回 サンタクロースは知らない

柊野ポネ  
 

 

 北風ふきすさぶ、日曜日の午後。新しく買いかえたレンジオーブンでアップルバイを焼いた。
 お菓子づくりってしないタチである。
 料理することは得意じゃないが苦にならない。ほかの家事同様、ストレス解消につながっている。住まいは小さなマンションだが、家のなかをこちゃこちゃさわるのもすきだ。整理整頓を夜中に突然はじめてしまうひとで、はじめると毎日の生きる楽しみになる(大袈裟か)。生活用品をなるべくとりそろえないですっきりくらしたい、とつねづね思っている。自分の気にいった環境にさえいれば、けっこうマメに主婦業につとめていられるほうなのだ。(あまりだれもみとめてくれないが。)

 

 話をもどすと、甘いものはすきなのだけれど、お菓子づくりは苦手であまり手をださない。それなのに、ユーガが学校の「総合」授業で今年はパンづくりを経験したことから、その流れでわが家でもかんたんなパンやお菓子をつくったりするようになった。粉はちらかるし、時間と手間をかけたわりには(単なる)パンにすぎないし、あっという間にたべられてしまうし、どうもワインのおつまみをつくるのとでは楽しみがちがう。
 
でもね、やっぱりおやつをつくってくれるおかーさん、というのはコドモはうれしいんだね。この日もアップルパイが焼けるまで、ルンルンとオーブンのまえをいったりきたりしている様子や、できたてのアツアツをほふほふとたべている顔をみていると、またつくろうかね、という気分になる。最近自分のことでせわしくしていて、すこし子育てにかまけていられなかった母親としての帳尻あわせといったところもある。

 

 もうすぐクリスマス。イブにはここのところ毎年ミサにでかけている。といっても教会でおこなわれる大々的なものではなくて、ユーガが通っていたカトリック系の幼稚園に隣接している修道院のなかのちいさな御聖堂(おみどう、とよびます)でのコドモ向けのミサである。神父さまのお話をきいて、ひとりひとり神父さまのまえにすすんで「祝福」をいただく。そして、シスターたちお手製のツリー型クッキーというかビスケット(昔ながらの、甘いお砂糖がたっぷりかぶさった、ひとくちたべると粉々になって歯にくっついてしまうよーな)をおみやげにいただいて帰ってくる。

 

 幼稚園の在園生もたくさんきているし、御聖堂自体は広いたてものでもないので、ユーガなんかをつれていくとけっこう気疲れもするのだが、どういうわけだか、ここにはいるとヤツは静かにしていたりする。
 幼稚園にいたときから、お誕生日会やら七五三、卒園式のミサとかで、ここで歌を歌ったりお話をきいたりする機会も多かったから慣れしたしんだ場所なんだろうけど、このピンとはりつめた空気が彼になにかをおぼえさせているのかもしれない。いつもの暴れる小悪魔がなりをひそめて、羽根をやすめた天使のごとくすわっている。(といいながら、いざ退場、にそなえて私も気はぬけない。うしろにならんでいる幼稚園の先生方もそうかもね。卒園してもホントいつまでもお世話をおかけします)

 

 私自身も家族もクリスチャンではないのだが、幼稚園時代の知りあいにはそういうひとがまわりにたくさんいたので、自然にその教えたるものが心のなかにはいりこんでいるところがある。
 あたえられた一日に感謝の心をもち、ちいさな喜びをゆたかなものへと変えていくのは自分自身の心のありようだと。自分だけにとどまらない他への愛情があふれることが子育てのみなもとであるとか、私自身もユーガといっしょに幼稚園に通いながら、母親としての心がまえをここで学んだような気がする。御聖堂のなかで、ほかのおかーさんたちと讃美歌をいくつも歌いつないでいると心がなごみ、気持ちが落ちついた。
 「ユーガをクリスチャンにしておくと、私たち親がいっしょにいてやれなくなっても、神さまやシスターたちがみまもってくださるかなぁ」と思ったことも何度となくあった。心強きものも弱きものも、生きつづけていくことはほんとうに大変なことだものね。

 

 宴会ずき?のわが家ではあるが、イブの夜だけは家に帰ってからも特別なことはなにもしない。テレビを消して、キャンドルとツリーのあかりだけでの静かな夜をしばしすごす。シスターたちのあまーいビスケットをかじりながら、あちこちからいただいたプレゼントとともに写真をとってもらって満足げにほほえみをうかべるユーガ。ほのかな光のなかで写された毎年のスナップをみくらべていると、この日だけは天使にみえないこともないか、 と思う。

 

 「ユーくんは、今年はサンタさんになにをお願いした?やっぱり絵本?」と、先日の子ども会でのクリスマス会でゲームをしながらコドモたちが聞いてくる。そうねぇ、今年も絵本かな。絵本読むの(みるの)すきだからネ。
 毎年悩むのがそこのところで、ユーガはサンタクロースの存在そのものを知らない。いや、クリスマスどころか自分の誕生日だってわかってないはずだ。(そんな彼に「その日」をわからせるべく、わが家では毎年イチゴののった円形のデコレーションケーキはバースデーに、チョコレートのブッシュ・ド・ノエルはクリスマスときめて、お祝いの日としている。ケーキで知る記念日である)
 「パパがサンタクロースになってプレゼント渡してあげたら?そしたらよくわかるんじゃない?」そうね、みんなみたいに心待ちしてくれるとサンタさんも(パパも私も)プレゼントするにも熱がこもるはずなんだけどね。イブの夜は、サンタクロースのでてくる絵本でも読みながら、サンタさんの到着をユーガといっしょに待ちましょうか。クリスマスケーキもひさしぶりに今年はママの手づくりで。

 

 年のおわりに。一年間読んでくださり、おつきあいくださったみなさま、ありがとうございます。メリー・クリスマス!そしてよいお年を。

 

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