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よみたい!ネット
エッセイ

 

天使、なんて呼べない。
第16回 海がくれたおくりもの

柊野ポネ  
 

 

 夏休みがおわって、急にユーガがデカクなった気がする。
 四六時中そばにいる家族が気づくほどだから確かだと思うのだが、2学期の始業式の朝、教室に入ってきたユーガをみて先生も、「あら、どこのコかしら。みなれないコが遊びにきてくれたのね」としばらく思っていたというのだから、やっぱりコドモは夏大きくなる?背が伸びて日焼けしてちょっと少年ぽくみえる。学校はやっぱりうれしいんでしょーかね。教室なんかまだ暑くて暑くて、クーラーにひと夏あたった体にはこたえると思うんだけど、トモダチどーしでじゃれあって笑顔でよろこんでいるらしい。

 

 もう夏も過ぎようとしている。今年の夏休みも、オトモダチ家族と高原にでかけて気持ちのいい風にふかれたり、緑の美しい木々の間を散歩したり、キャンプをしてログハウスに寝泊りしたり。家族で南の島へいって透明な海のなかを魚たちと泳いだり(ユーガはハシャギすぎてもぐりまくるので、魚は逃げてしまうのが常なのだが)もした。日常では味わえない、自然との短くとも貴重なふれあいを今年も感じさせたいだけだった。
 独身時代こだわりをもっていたオトナの旅とは一線を画して、最近では私自身もだんだん夏はアウトドア化していく傾向にある。マングローブのある川をカヤックで下ってからはカヌーが家族で趣味なんていいなぁ、とか思ったりした。日本のあちこちの川を家族で下ってすごす、なんていうのはかなり上級者になってからだなぁ、とかね。単純だぁ。
 ちなみにユーガはまだオールをあやつることはできず、インストラクターのおにいさんのまえにちょこんとのせていただいた。オールで川辺の木をたたいたり、自分は川で泳ごうとするわ、迷惑この上なかったからで、そのたびに私と主人はユーガをなだめに、彼らのカヤックのもとに必死にこいでいかねばならなかった。やれやれ。先は長いね。

 

 ヨットには、ユーガは幼いときからのって海を行き来している。といっても、わが家のものではなくて、友人家族が所有しているヨットのセーリングに誘われて、ときどき週末を楽しませてもらっているだけなのだが。
 ヨットの日は朝早くハーバーに車でのりつけて、近くの小島にわたる。太陽が照りつける下、風だけを帆にうけてヨットは海の上をすべりゆく。コドモタチの声に呼ばれるのか、スナメリの親子が追いかけっこをするように横を泳いでいくときもある。
 島では老夫婦がふたりだけでやっている、お世辞にもきれいといえない食事処があって、「小エビのから揚げ」と「タコのおでん」と「大アサリ丼」が絶品。潮風が入ってくる小さな店のなかでガタガタのテーブルと小さな椅子に腰かけて食べる。
 今夜のワインはどーしよー、サンテミリオンはのみたくない気分ね、とノタマッている普段の自分とはべつに、こーゆーもの食べているときの自分もとっても好きなんだぁな、私。食事のあと、オトコたちは釣りをし、コドモたちは海岸で遊び、ヨットからロープを体につなげてもらって泳ぎ、のんびり一日すごす。

 

 自然相手のことだから、トーゼン危険はつきもので、セーリングは毎回異なった様相をみせる。風がかわると進み具合もまったくちがうし、タック(方向転換)をしてセールをかえすときは、ヨットは大きく一方にかたむき体が海に放りだされそうになる。ライフジャケットをきていても命の危険とは隣りあわせだ。それはオトナもコドモも、ユーガもおなじ。
 そのわが「ジューン・ブライドV号」がヨットレースに出場したとき、一度だけ参加させてもらったことがあった。オンナコドモが乗船しているとハンディがもらえるということで、(ほんとは、ジューン・ブライドはそんなものいらないほどベテラン・ヨットマンぞろいなんだよ)このときはすごかった。
 スタートから風がでてきて、私たちは危ないから(足でまといだからね)という理由で船室にいたのだが、なかにいると揺れは倍すごく感じる。ほどなく全員が体ごと荷物ごとひっくり返されて、転げまわってしまった。船酔いも激しくおきてきてみんなゲーゲー吐きまくる。母たちは転がるコを足で押さえて寝ているしかない。操縦しているパパたちもレースとなると目の色がかわって、下にいる私たちの様子など眼中にないのだから。まっ、あたりまえですわね。
 レースの結果は2位。私とユーガもすこしは役にたったのかな。表彰式でもらった小さな準優勝カップに美酒をいれて味わったのでした。しかし、このレース中、ユーガだけは船室から顔をだして戦況をみていたらしい。「ユーくんって酔わなかったんだねぇ」、みんなからまた別の意味で驚嘆されていた。

 

 でも海っていいよね。どんな悪戦苦闘があっても洗い流してくれる大きさがある。広い海のなかをシュノーケルつけて魚と戯れているときは、私も自然の一部になったようで大好きな瞬間である。こーゆー時間をコドモに知ってもらいたいと思うと同時に、最近では私自身も永遠につきあっていけたらいいよね、などと本気で考えたりする。
 「海のあるところにユートピアってあると思わない?」そんなことをよく話す友人のことばも思い浮かべる。ユーガたちが楽しく生きていける場所はこんなところにこそあるのかもね。楽園は現実に存在するのかな?

 

 9月になって日常が戻ってくるとホッとすることも多い。気がねなく自分の仕事ができることもそのひとつかなぁ、あまり認めたくはないが。なんせ、うちの愚息はパソコンに向かう私をみると、あのテこのテで邪魔をしにくる。それほど仕事をもっていたわけでもないのに、夏休みともなると月連載の書きものを仕上げるだけでも油断がならない。バックアップしていない原稿を電源消されて何度書き直したことか。短いコラムひとつでも1分ごとに上書き保存をしてガードをする必要も、「運動系家庭教師」のハイバラくんに助けを求めることももうなくなった。

 

 こうしてわが家のユートピアは、来年の夏がくるまで私の記憶から徐々に遠ざかっていくのであった。

 

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