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エッセイ
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| 第17回 闇にきこえるメロディ |
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| 柊野ポネ | |
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傷ついた体には、キース・ジャレットが心地よい。なんてね。
実はアタクシ、今「病み上がり」なのです。一週間ほど入院生活をおくり、数日前に退院し自宅にもどってきたばかり。大したことじゃないんだけど、前から懸念のトコをちょっと手術する、なんてこともありまして。自分の中ではさらっとすませてしまおうと思ってたのに、一週間も主婦と母が家を留守にするわけで、やっぱり大したことになってしまった。
留守中、諸々の問題のなかでいちばんの課題はやっぱりユーガのことで、昼間はとりあえず学校に放りこんでおくとしても(先生たち、こんな表現でごめんなさいよ)、登下校は誰かがつきそわなくてはならない。お稽古ごとはお休みするにしても(「連れていってもいいよ」なんていってくれたママもいたのだけど)、やっぱりヤツのおもりはバーバ(家事にきてくれる私の母)だけじゃキツクないかい?ということを、周辺のママたちが察してくれたようで、作ってもらった下校後の予定表にしたがい、ユーガはオトモダチの家でかわるがわるすごさせてもらった。
入院前日、ゴスペルのコンサートがあった。美容院で髪を整えてもらい、ラメのはいった爪をつけ、顔の隅々までメイクをして舞台に出ていた。それが翌日。髪をゴムでしばり、スッピンのパジャマ姿で病院のベッドに寝ている私がいた。こーゆーときの私はどこかで自分の置かれている状況を劇的に楽しむクセがある。昔から。
頭と体にステージの興奮が残ったまま、どこかひとごとのように一夜たって手術が終わった。麻酔からさめようとしているとき、さまざまなヒトの声がいちどに耳に飛びこんできた。私を起こそうとする若い麻酔医の男の先生やナースの女性たちの声、いや、舞台で私の隣でいっしょに歌っていたサクちゃんのソプラノか?先生たちも歌っている、どーして?みんなでハレルヤ、ハレルヤの大合唱だ。
それ以外はほんとうになんということもなかった。麻酔からさめた翌日から立ち上がって歩き、歯みがきもした。これをきくとみんな仰天するんだけど、執刀医のユズキ先生(どうみても三十そこそこの八木亜希子似のビジョ!性格もいいらしい)が「どんどん動いてくださいね」と透きとおる笑顔でおっしゃるので、がんばったわけです。
ユーガにとって、母親が突然いなくなった日々はどんなものだったんだろう。現担任のフジタニ先生によると、学校では他人への甘えがめだって、朝早く登校して教室にだれもいなかったりすると、遊んでくれる先生を捜しに職員室にいったり、隣のクラスにトモダチを見つけにいったりしていたとか。彼は彼なりに口はきけないけれど、わけもわからぬこの非常事態を外部とセッショクをとることで乗りきろうとしてたんだろうか。よそのお宅でおいしいものをたくさん食べさせてもらってか、体重もふえてるしね。コドモってたくましいもんだ。
退院後の暮らしは以前と変わらなく過ぎている。どこからか紛れこむ悪夢のフレーズもきこえてこない。夜中にキース・ジャレットをきいていたって心落ちつく時間が流れるだけだ。表面的には何も変わっていないようだが、私とユーガの向かいあう位置がほんのすこしだけ動いたような気がする。私と彼の間にうすい膜のようなものがひろがって、互いの領域をみすえているような気持ちが感じられる。彼の心の成長につながるきざしだったら、うれしいんだけどね。この一週間をとおして得た私の心と体の変化ともども、楽しもうと思っている。これから。 |
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