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よみたい!ネット
エッセイ

 

天使、なんて呼べない。
第20回 ユーガとリュー君のあいだ

柊野ポネ  
 

 

 学校にユーガを迎えにいくまで、あと1時間あまり。
 通学着を買った。ユーガのじゃなくてアタクシのです。UV仕様の黒のブルゾンと鍔広帽子。40もどっぷりゆきつつある年頃になりますと、ホントキレイごといってられなくて、全身覆ってコドモの送り迎えにつきそわにゃならん。ユーガが小学生になってから、夏が近づくと新しい日傘を買って分団の女の子たちと話をしながらのんびり通学していたのだが、今年から大所帯のグループに入ることになって、でなんとなく親の私もそんないでたちに。
 でも日焼けする。この間なんか仕事先から学校へ迎えに直行して、たまたまノースリーブ姿だったものだからたまらない。家までたった10分ほどの帰り道で、肩がヒリヒリ。おーい、若いときってこんなにヤワじゃなかったぞい。それ以来、出先にいても私は一度家に戻ってコノ上着をはおり、ユーガを迎えに走る。時間がなくても、ふーふーいって、走る。

 

 この坂道下る学校への5分の道のり、家で朝からこもって仕事なんかしていると、頭の中がまだ「親」モードに入ってないことが多い。ジャクリーヌ・デュ・プレの音楽についての原稿をまとめるべく、必死にいれこんでいた日にゃ、一音で周囲を戦慄とさせる彼女のチェロの世界につい先程まで私はいたわけで、
 「ユーガさん、今日はクラブの時間、こっそりよそのクラスにいっていましてね。そこで制作していたアイロンビーズの鍋敷をちょっとかじって!しまって、たまたま通りかかられた親クラスのネコタ先生につれてきていただいたんですよ」
 などと、学校に着くなり担任のフジタニ先生のおしとやかな口調でいわれても、手のかかるヤロウをコにもつ母親の心情に切り替わってなくて「あっ、あっ」といっているだけなのだ。帰ってきて連絡帳をみて、先生たいへんだったわぁ、とやっと親の気持ちに戻る。

 

 だいたい昔から、自分を楽しむ時間がいくつも持ちあわせていないと煮詰まっちゃうほうなんだけど(仕事だけとか、家事だけとか、趣味でも遊ぶことでも、シチュエーションが自分のなかで凝り固まってくると、日常がものすごく!猛烈に!退屈に感じる)そのくせ、その切り替えにカラダとココロがついていけないんだな、最近。コレも年齢?もしかして。

 

 物理的にも、仕事が予定通り終らず、渋滞の中、車を飛ばして迎えにいくことにも疲れて、最近は余裕がないときは行政の子育てサービスの方にお願いしている。そしたら、気持ちがサクッと楽になった。ほんの30分か40分遅れで、迎えにいっていただいたシッターさんのお宅に伺うと、ユーガはそちらの兄弟たちとジャガリコなんか食べていたりして。
 やっぱりヒトはひとりでは生きていないよねぇ。ショーガイのコがある母はすべてを抱えてがんばるヒトになりがちだけど。
 みなさん、いっぱいヒトに頼りましょーね。他人に助けを求めるちょっとの余裕と勇気がアナタを変えてくれます!
 まっ、そのよそのお宅に迎えにいくときも、ヤツはおとなしくしてくれていただろーか、と心配するヤキモキはつきものなんだけど。

 

 でも、そのヤキモキが最近はちょっと私の中で変わりつつある。
 この春から、気楽な(ホントは気楽じゃないよぉ)フリーランス稼業とは別に、ショーガイをもって地域の小学校に通っているコドモたちの手助けを学校に入ってする仕事をはじめた。
 十代の終わり、ひとつの夢を胸に大学で学んでいた勉強、取得した資格(ウソみたいな人生のツジツマが私にはあってね。養護学校の教員免許を持っているんデス、アタシ。ユーガが生まれるウンと以前のときから)が、わが人生においてはじめて役にたったわけだ。(そのいきさつは、この連載を第一回から読んで下さっている方でもお忘れだと思います)
 それと同時に、ここ数年の、私がユーガと経験してきた滑った転んだ話もムダではなかったと思えて、それもちょっとうれしい。同じ親として、ハンディのあるわがコの子育てと教育に苦心されている親御さんの役に、こんな私でも(私だから!)たてることがあるんじゃないか、と思えてきたんだよね。

 

 そして週に数回なんだけど、ユーガの弟のよーなリューくんと過ごせる時間が、これまたとても楽しい。
 歩くことがちょっと不安定、でも話すこともできて字も書けて数の計算もできる彼は、ユーガとは多分対極のショーガイをもっているコなんだけど、彼とのもうひとつの学校生活は新鮮で興味深い。
 私は彼の自立の邪魔と負担にならない程度のアシストをして、クラスのコドモたちと授業をうけ、給食を隣りの席で食べ、そして同じモップをもって教室の掃除をする。春の運動会、彼は体調がすぐれなくて車椅子に座って見学だったけど、白組の応援をいっしょにした。

 

 最近感じることは、学校というものはコドモにとっていかにムダな時間が多いか、という貴重な思いである。ショーガイ児だからケンジョー児だからという問題ではないんだよね。毎日繰り返される、与えられた、決まりきったような日常の中で、コドモは時間をたっぷり使って、そこで笑い、何かを見つけて身につけて、いつのまにか大きくなってゆく。
 私自身のことだとムダな遠回りをすることがキライじゃないのに、自分のコドモとなると、近距離に合理的に育てたがるムキがあるのよね。そんなこともちょっとわかった。私が学んでばっかじゃ、リューくんに申しわけないんだけど。

 

 いま、ユーガは遅ればせながらの目下、自己主張期と反抗期に突入中。わがままは絶対通さないよぉ、ママのことナメんじゃないッ、と親としての気迫と威厳は守りつつ、私も傷だらけの格闘中ではありますが、ちょっとだけその怒鳴り声にもちがう音色が雑ざっている気がするんだけどな、最近。
 あー、時間だ。さっ、学校までひとっ走りいってくるかね。今日はくもり、うれしいわ。

 

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