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ショートストーリー
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月夜のリゾット (つづき) |
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本当に竜宮城だったのかもしれない。
夢だったのかもしれない。そう思い始めたとき、あの「きのこのリゾット」の味が甦った。それまで食べたことのない、とても優しい味だった。そして、思い出したのだ。店を出るとき見送ってくれたマスターが、こう言ったことを。
5年。満月。それは、別に5年後の満月にまたおいで、と言っていたわけではないのだろう。でも、私には何故か、特別なキーワードに思われて仕方ないのだ。
◆◆◆
確かに私の人生はすっかり変わった。変わったなどというものではない。激動だった。人生で最も幸せな出来事と最も不幸せな出来事が、一度に訪れた5年間だった。そして、この先どうやって生きていけばいいのかわからない私がここにいる。というより、私は今、死のうとしているのだ。
5年前、恋人と別れる原因にもなった仕事。あれほど執着していた企画会社の仕事を、私はあっさり辞めてしまった。本当に自分がやりたかったのはこれだ、と思える仕事を見つけたからだ。それは、なんと、母親になることだった。
ニューヨークの彼との別れはとても辛かったけど、仕事の面白さと忙しさに、いつしか悲しみも薄れていった。そして、仕事を通してある男性と出会い、恋をした。その人には3歳になる男の子がいて、奥様は不幸なことに亡くなっていた。可愛い、本当に可愛い坊やだった。私はその子の母親になりたかった。なりきりたかった。いいお母さんになることが、私の目標になったのだ。
仕事を辞めて、結婚して、いきなり母親になった私は、もう夢中だった。自分で言うのもなんだけど、本当によく頑張ったと思う。もちろん、夫となったその人も協力してくれたし、私たちはとても理解し合えていて、幸せだった。もっともっと、幸せになろうと思っていた。もっともっといいお母さんになろうとも思っていた。
大きな公園の横に続く歩道が、やがて住宅街にさしかかった。あの日のように、満月が輝いている。見えてくるかな、あのお店。また食べさせてくれるかな、あのリゾット。聞いてくれるかな、私の話。だって、8ヶ月も前からこの日をずっと待っていたのよ。あの日、夫と一人息子を一度に失ってしまってから。交通事故であっという間に。
◆◆◆
なかった。その店は、やはりもう現れてくれなかった。失望にがっくりと肩を落とした私である。
しゃがみこんでいると、排気音が近づいてくるのがわかった。私のそばで止まる。目を上げると、あの日、私を送ってくれた若い男の子だった。不思議、あの日のままの風貌だ。ひょろりと細くて背が高く、ヘルメットをとるとウェーブのかかった長い髪がふわりと揺れた。
「奈津子さん」 行くことにした。いいじゃない、鬼だろうが、魔物だろうが。だって私はもうすぐ死ぬんだもの。あの人と達也のところへ行くんだもの。 |
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