自然相手のことだから、トーゼン危険はつきもので、セーリングは毎回異なった様相をみせる。風がかわると進み具合もまったくちがうし、タック(方向転換)をしてセールをかえすときは、ヨットは大きく一方にかたむき体が海に放りだされそうになる。ライフジャケットをきていても命の危険とは隣りあわせだ。それはオトナもコドモも、ユーガもおなじ。
そのわが「ジューン・ブライドV号」がヨットレースに出場したとき、一度だけ参加させてもらったことがあった。オンナコドモが乗船しているとハンディがもらえるということで、(ほんとは、ジューン・ブライドはそんなものいらないほどベテラン・ヨットマンぞろいなんだよ)このときはすごかった。
スタートから風がでてきて、私たちは危ないから(足でまといだからね)という理由で船室にいたのだが、なかにいると揺れは倍すごく感じる。ほどなく全員が体ごと荷物ごとひっくり返されて、転げまわってしまった。船酔いも激しくおきてきてみんなゲーゲー吐きまくる。母たちは転がるコを足で押さえて寝ているしかない。操縦しているパパたちもレースとなると目の色がかわって、下にいる私たちの様子など眼中にないのだから。まっ、あたりまえですわね。
レースの結果は2位。私とユーガもすこしは役にたったのかな。表彰式でもらった小さな準優勝カップに美酒をいれて味わったのでした。しかし、このレース中、ユーガだけは船室から顔をだして戦況をみていたらしい。「ユーくんって酔わなかったんだねぇ」、みんなからまた別の意味で驚嘆されていた。
でも海っていいよね。どんな悪戦苦闘があっても洗い流してくれる大きさがある。広い海のなかをシュノーケルつけて魚と戯れているときは、私も自然の一部になったようで大好きな瞬間である。こーゆー時間をコドモに知ってもらいたいと思うと同時に、最近では私自身も永遠につきあっていけたらいいよね、などと本気で考えたりする。
「海のあるところにユートピアってあると思わない?」そんなことをよく話す友人のことばも思い浮かべる。ユーガたちが楽しく生きていける場所はこんなところにこそあるのかもね。楽園は現実に存在するのかな?
9月になって日常が戻ってくるとホッとすることも多い。気がねなく自分の仕事ができることもそのひとつかなぁ、あまり認めたくはないが。なんせ、うちの愚息はパソコンに向かう私をみると、あのテこのテで邪魔をしにくる。それほど仕事をもっていたわけでもないのに、夏休みともなると月連載の書きものを仕上げるだけでも油断がならない。バックアップしていない原稿を電源消されて何度書き直したことか。短いコラムひとつでも1分ごとに上書き保存をしてガードをする必要も、「運動系家庭教師」のハイバラくんに助けを求めることももうなくなった。
こうしてわが家のユートピアは、来年の夏がくるまで私の記憶から徐々に遠ざかっていくのであった。