「いらっしゃい」
わたしを出迎えてくれたその人は、木綿の白っぽいワンピースを着ていた。綺麗というより可愛らしい感じで、わたしは少しどぎまぎしながら小さくこんにちはと言った。
「これ、おかあさんが……」
アップルパイを手渡すと、マモルくんのおかあさんはニコリと笑った。
「ま。どうもありがとう」
マモルくんの部屋は二階にあって、あまり子ども部屋らしくない家具が置かれていた。ずっしりと重そうな大きな机。大人が二人寝ることもできそうなベッドには、カーテンと同じ柄の渋い色のカバーが掛かっていた。二人掛けのソファにも、同じ柄のクッションがあり、そこに投げ出された真新しい黒いランドセルが、場違いな感じだった。
「前に住んでいた人がきれいに使っていたから、このまま使いなさいって、おとうさんが」
入り口でぼんやりしているわたしに、マモルくんが言った。
「おとうさん、いるんじゃない」
「でも、会ったこと、ないんだ」
わたしは、聞いてはいけないことなのかもしれないと、なんとなく思った。
その後、その部屋でわたしたちはいろいろなことを話した。もちろん、まだ小学一年生なので、他愛のないことばかりだったが。ただ、その日の夕方になるころには、わたしとマモルくんの間に、深い信頼と友情が生まれていたことは確かだ。
マモルくんという子は、他の人と比べて、一足早くわたしのきもちを読み取ってくれるような気がした。すぐにわかってくれる、言わなくてもわかってくれると感じたことさえあった。わたしは丸ごと受け入れてもらったような、安心感に包まれていた。
マモルくんのおかあさんが、おやつを持って上がって来た。母が持たせたアップルパイが皿に乗っていた。
「ユリちゃんのおかあさま、お菓子作りが上手ね」
ソファの前の黒っぽいガラスのテーブルに皿を並べながら、彼女は微笑んだ。紅茶の色が、とても綺麗だと思った。
「あのね。ごはんも美味しいのよ。今度マモルくんと、うちに来て」
わたしは心からそう思って言ったのだが、彼女は一瞬びっくりしたような顔をして、すぐにニッコリとありがとうを言い、立ち上がって部屋の窓をあけた。
そこには、午後の光にきらめく海が広がっていた。毎日自分の家の二階から眺める海だったが、何度見てもドキンとする。わたしは彼女のそばに行って、水平線をみつめた。マモルくんも並んだ。三人は黙って海を見ていた。