水平線とアップルパイ -3-
かなりあ月子
夏になって、わたしは七歳になった。家でささやかな誕生日会をしようと母が提案してくれて、学校の、数少ない友達を呼んでみた。もちろん、マモルくんにも声をかけたのだが、彼はすぐには頷かなかった。おかあさんに聞いてみると言う。
家に帰ってこのことを母に告げると、それならばと母が隣に出向き、彼のおかあさんに声をかけた。
「よかったら小夜子さんもいらっしゃいな」
少女のように頬を染めて、マモルくんのおかあさん、小夜子さんは首を振った。
「衛だけ、お願いします」
そして、マモルくんはこの日初めて、我が家に上がったのだった。
マモルくんは、クラスでも人気者だったから、他の友達も大喜びで、なかなか楽しいパーティーだった。エリも大好物の葡萄をたくさん食べて、いつになく華やかな居間でご機嫌だった。ただ、わたしは小夜子さんのことが少し、気がかりだった。
「おかあさんはね、すごく恥ずかしがり屋さんなんだよ。ユリちゃんといっしょだね」
隣に座ったマモルくんが、そうつぶやいた。このとき初めて、わたしはマモルくんがわたしの心を読めることを強く意識したのだった。それは、今までの安心感と少し違い、小さな恐れを含んだ違和感だった。
マモルくんは、顔色を変えたわたしを見て、とてもとても寂しそうな顔をして、すぐに帰ってしまった。
夕方、みんなが帰ってから、わたしは一房の葡萄を持って、隣家に行った。マモルくんは、白いアーチの門の下にいた。
「ごめんね。すぐに帰っちゃって」
いつもの優しい笑顔だ。わたしは心から安心した。
「一緒に葡萄を食べよう」
薔薇の季節ではなかったので、あのいいにおいはしなかったが、薄緑の葡萄のほのかな甘さが、わたしたちを安定したきもちにさせてくれた。
「このタネ、蒔いてみる?」
「蒔いてみようか」
夏の夕暮れは、なかなか終わろうとせず、いつまでも一定の明るさを保っているかのようだった。