水平線とアップルパイ -5-
かなりあ月子
そろそろ、ちゃんと向き合わなければならないと思った。わたしたち夫婦のことを。甘えていないで、すねていないで、大人のパートナーとして、ちゃんと考えなくては。けれども、わたしにはもう、ほとんど別れたい理由が見つからなかったのだ。今のわたしなら、きっと大丈夫。うまくいく。不思議だが、そんな自信がある。
小夜子さんに言われたせいかもしれない。でも、それだけじゃない。
わたしには、昔、マモルくんという小さな恋人がいた。そして、彼に丸ごと受け入れてもらえていた。それは、甘えにもつながったかもしれないが、誰かに丸ごと受け入れてもらえたという最初の自信になったのだ。今、マモルくんを思い出すことで、最初の自信をも思い出すことができた。わたしには、愛される価値がきっとある。こんなわたしだけれど……。
ちょっと怖い大きな秘密と、ときめくようなたくさんの小さな秘密を、共有しているマモルくん。マモルくんは、わたしにとっての水平線なのかもしれない。いつでもそこにあり、いつでも帰って行くことのできる、二人の思い出。いつでも帰れるのだから、もう少し、旅を続けてみようかな。
それにやっぱり、わたしは夫の陽介を失いたくない。愛しているのだ。本当に鈍感だなって、思うこともたびたびだけど。
ひたすら愛された頃の安心感を思い出す。父や母に愛された記憶のように。陽介のぬくもりに包まれながら、幸せの夢の海にすぅっと落ちていった日々。それはそんなに昔のことではないのだった。そしてそれを永遠に失うことは、わたしには耐えられそうもない。
秘密の小道を抜けると、空は夕映えに輝いていた。何もかもがオレンジ色に染められている。わたしの大切な思い出が、美しい町で良かった。誰にともなく、感謝したいきもちだった。
あの隠れ家のような洋館は、一度手放したものの、その何年後かにまた、マモルくんのおとうさんが取り戻したようだ。近いうちに手を入れて、小夜子さんと二人で住むつもりらしいとのことだった。だとしたら、マモルくんもたまには、この町に来るようになるのかもしれない。そして、わたしのことを思い出してくれるかもしれない。わたしたちの幼い思い出をなつかしんでくれるかもしれない。そんなことを考えていたら、自然に口元がほころんできた。