マッシュルームサラダ・春仕立て(つづき)
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 なつかしい駅に着いた。4年間暮らした町だ。駅前の風景はほとんど変わってしまったけれど、小さな商店街には見覚えのあるお店がまだいくつか残っていてほっとした。八百屋さんや豆腐屋さんの前には昔と変わらない人垣ができていたし、お肉屋さんの名物コロッケコーナー前の行列もあの頃のままだった。角のお花屋さんではよく切り花を安く分けてもらったっけ。パン屋さんの建物はきれいになったけど、店名は同じだったのが何故かすごく嬉しい。40を過ぎた女二人が、商店街のあちこちで足を止め、小さく叫んだり小躍りしたり。傍目にはさぞや奇妙に映ったことだろう。

 

 商店街を抜けると公園沿いの緑道に出る。細長いその公園にあるブランコに腰掛けて、コロッケをほおばったのを思い出す。公園の向こう側はさっき乗った電車の走る線路が続いている。速度を落として駅に滑り込む電車を見下ろしながら、私は恋人を待ったものだ。パンや花を抱えた恵一が背中に声をかけてくれるのを待っていた。でも、声をかけてくれたのは優奈の方が圧倒的に多かった。美帆子、風邪ひくよ。

 

 「美帆子、よくあそこにいたね」
 優奈がなつかしそうにブランコを指さす。沈丁花が香った。それにしても日が長くなったものだ。6時を過ぎたのにまだこんなに明るい。
 ここからアパートまで、優奈とよく一緒に帰った。ときどきは優奈の隣に久史もいた。彼らは本当に仲の良いカップルだった。絶対に結婚するものだと思っていたから、別れたと聞いたときは驚いた。しかし、その後も優奈は一途に久史を想い続けたのだ。久史が他の女性と結婚してからも。

 

 「ああ、やっぱりなくなっちゃってる」
 「コンビニになっちゃったね」
 私たちの青春の思い出が詰まったあのアパートはすでにこの世にはない。そう確認したとき、残念に思うよりも小さな安堵を覚えた。あの部屋に他の誰かが暮らしていたり、外観が見る影もなくおんぼろになっていたりしたらどうしよう、と思っていた。そんな姿は見たくなかったのだ。上下2部屋づつの小さなアパートだけど、白くて綺麗な建物だった。可愛いらしい印象だった。そのままの姿で記憶に焼き付いていてほしい。優奈もおそらく同じような気持ちなのだろう、ため息をつきながらもニコニコしている。
 「この先の洋食屋さん、まだあるかしら?」
 優奈はもう歩き出した。洋食屋。そういえば、バイト代が入るとその店で夕ご飯を食べることにしていた気がする。優奈と二人で行ったり、恵一と二人で行ったり、たまには四人で食事したこともあった。一輪挿しが置かれた赤と白のギンガムチェックのテーブルクロス。そこに涙の染みを付けた日もあったけど。

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