密航少年Kayの亜米利加見聞記Vol.11(つづき)

●町でただ一人の警察官

 

 バルボアビーチには一人の警察官がいた。給料は町からもらって何年も勤めているが、ここは盗難もケンカも起こったことがない、しごく平和な町だ。ロングビーチ一帯はドライタウンで酒屋はないしレストランでもアルコール飲料は置いていないから、それも治安の維持に一役買っているのだろう。彼も週末は制服を着るが、その他の日は格別用事もないので、普通の格好にバッジだけをつけ町の人に頼まれた用事をしたりしている。いわば町の番頭のような男だった。

 

 ある日のこと、オジトリウムの階段の中ほどでこのポリスに会った。彼は僕のことを他所者だと思ったらしく、二言三言話しているうちに口争いになり、怒鳴りあいになった。
 「何をこの小男、町の使用人じゃないか。」と僕が言えば、向こうも「何を、東洋人は東洋に帰れ!」と切り返す。
 あわや取っ組み合い、というとき町の人が仲裁に入ったが、僕の腹の虫はおさまらない。
 夕食のとき西川君にこの話をすると、「もう少しやればよかったのに。奴は弱いんだ。それに町に雇われている立場だから、町の者やお客に恨まれるようなことはしないさ。」と言う。ポリスが住民になめられているようでいいのだろうかと思ったが、それだけこの町が平和だということなのだろう。

 

 翌日、またオジトリウムへ行って西川君と話していると、昨日のポリスがやってきた。 「昨日は失礼した。」と打って変わったような愛想のよさである。西川君が僕の紹介をしてくれた後、職業を聞かれたのでエンジニアーだと答えると、彼の目が輝いた。
 「それは好都合だ。実はある農園主にエンジニアーを探してくれと頼まれているんだ。一つ遊びに行くつもりで行って見てくれないか」
 そこはコックも洗濯人もいる大きな農場で、主人もなかなかの好人物だという。エンジニアーには個室も与えられ、待遇もかなりいいようだ。
 ただ何分にも場所が辺鄙なところにある。ロスアンゼルス市から急行列車で三昼夜でサンバレーに着き、そこからさらに十五マイル。そのあたりは一昼夜の間、家も木もない砂漠のようなところだという。
 そんなところでは誰も行きたがらず、警察官氏は頭を抱えていたらしい。しかし僕にとってはそういうところの暮らしもまたおもしろそうに思える。だいたいそんなところは、人間も素朴でつきあいやすいものだ。

 

 機械の方も、水道用発動機、発電機、冷蔵倉庫、ドイツ製の自動車一台くらいとのことで、まあ簡単だと思った。これなら僕のようなものでも結構勤まるかもしれない。カリフォルニア大学で身につけた知識がどこまで通用するものか、自分の力を試したい気持ちもあって、サンバレー行きを承諾した。
 七分の好奇心と三分の腕試し、というのが僕の気持ちだが、ポリスの彼はそんなこととは露思わず、大いに喜んで早速先方へ通知したようだった。

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